CITY HUNTER －ミニ研究

名前の秘密

主人公なのにJIS水準外字…
「冴羽」はWeb製作者泣かせの名前である。おかげで、多くのサイトでは「リョウ」とカナ表記だったり、「遼」「僚」「撩」などの当て字が使われ、主人公の名前についての断り書きがある。面倒なのか「冴羽」と名字呼び捨てのところもある。（公式サイトでは、画像が使用されている。）
当サイトでは、とりあえず見た目の印象が近い「撩」を使っているが、これとても通常の変換操作では出ない。入力時には辞書登録が必須だ。

なぜ作者はこの字を使うことにしたのだろうか。

「リョウ」という名前そのものは、
CITY HUNTER …都会の狩人―狩り＝猟、として決めたのではないかという想像はつく。（タイトルと主人公の名、どちらが先だったか、という問題はあるが…）
漢和字典を引いてみると、「」の字には次のような意味がある。

1. (名) 火をもやして獣を追い立てる夜の狩り。夜猟。
2.（名）民族の名。西南地方に住む少数民族の総称。
（学習研究社「漢和大字典」より）

「リョウ」という名に用いられる字は非常に多い。その中で「涼」や「亮」、「遼」、「僚」ではなく「」にしたのは「火をもやして獣を追い立てる夜の狩り。夜猟。」の意味が、スイーパー・シティーハンターにふさわしく、またオリジナリティもあったからだろう。
ちなみに作者はをこんな風に表現している。

「（中略）は、どうしようもないほどもっこりな奴だが、プロのスイーパーとしてのもう一つの顔がある。しなやかな野獣のような素顔がある。」
(集英社文庫（コミック版）「CITY HUNTER」第18巻　北条司あとがき)

「獣偏」を持つ「」の字は、やはり彼にぴったりの字と言えそうだ。

また少し視点を変えてみると、こうも考えられる。
辞書を引けば、人名用漢字でないことはすぐにわかる。名前からして既にアウトローというわけだ。それをあえて使っているということは、この字を使うことで、それが「本名ではない」、ひいては日本で育っておらず、本名もわからないという彼の過去を暗示させたのではないだろうか。

…まぁ、たぶんそこまで深くは考えていなかっただろうが…

さて、作中で、初めての名の由来について描かれたのは#48「ふたりのシティーハンター」においてである。
の祖父と名乗る老人が現れて、名前について尋ねる。

「…あんた…冴羽という名は本名かな？」
「……いや　この名はある人がつけてくれたものだ　……おれは当時リョウとしか名を覚えてなかった」
（JC28巻P135-136）

後に、この「ある人」がユニオン・テオーペの長老、海原であることが判明する。海原はの育ての親であると同時に、名付け親…いわゆる「ゴッドファーザー」でもあった。「ゴッドファーザー」は、マフィアの世界を描いた同名の映画が有名だが、もともとはキリスト教の洗礼式での（洗礼名の）名付け親を指す。スペイン語圏では「パドリーノ」（Padrino）と言い、後見人のような役目も果たす習慣があるという。の育った中米の国にも、おそらくそれはあっただろう。

…まぁこれも、わたしの考えすぎなんだろうけど…（苦笑）

海原がなぜその名前にしたかということについては、作中では触れられていない。彼は日系人であるという設定だから、漢和字典ぐらい持っているかもしれないが、わざわざ日本の法律上使えるかどうかまでは考えないだろう。
いずれにせよ、日本人らしい名前を与えてくれた海原に対し、少年時代のがどのような感情を持ったかは、想像するに難くない。

CH以外でも例えば「CAT'S EYE」では、三姉妹の末っ子愛が、父からクリスマスプレゼントをもらったことがなく悲しんでいたが、実は「愛」という名前こそ、生まれる前に父からもらったプレゼントだったというエピソードがあり、また「F.COMPO」では作者がある登場人物の名をつける際、辞書にない読み方だが意味にこだわってそうつけた、というコメントがある（単行本2巻）。さらに「Angel Heart」に登場するもうひとりの冴羽の場合は、それまで使っていたたくさんの偽名の中から、後にパートナーとなる香に「冴羽」の名に決めてもらった、という話がある。
多くの作家がそうだろうが、北条司もやはり名前にはこだわり、深い意味を持たせているようだ。

そしてもちろん現実のわたしたちにとっても、「名付ける」ということは非常に意味のある行為だ。CEの愛の例を持ち出すまでもなく、名前は親が子に生まれて初めて与える贈りもの…なのだろう。

そうそう、「槇村香」の最初の文字「槇」も、「槙」の旧字体であり、パソコン上の通常の変換では出てこない。
…まったく、二人そろって困ったコンビなのである。(笑)

余談。
CH連載開始時は、まさかこのようなインターネット時代が来るとは
予想していなかったでしょうから。
もしも今、名前を決めるとしたら、
Webでの表示に支障のない文字を選んだかもしれませんね。
…でもやっぱりリョウはだなぁ…
そういえば「冴羽」という名字は、どうやって考えたんでしょうね?
実在する名字なのかしら。
どなたかご存じですか?


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